新潟地方裁判所 昭和42年(レ)31号 判決 1968年2月29日
控訴人 田琪
被控訴人 苅部末吉
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事実
一、控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
二、被控訴人は請求原因として次のとおり述べた。
1、新潟市湊町通一ノ町二、六五五番地一、同番地二、同番地三、同番地四、同番地六、同市本間町二丁目二、六五六番地二所在、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建北側、家屋番号同町三五番二、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟、床面積一一八・一八平方メートル(三四坪七合五勺)(以下主たる建物という。)に接続する合計七・二七平方メートル(二坪二合)の便所、台所及び玄関(別紙図面表示赤斜線部分、以下係争部分という。)は、もと田淵利夫が昭和三〇年頃主たる建物に附加したものであるが、被控訴人は昭和三五年四月二一日新潟地方裁判所昭和三四年(レ)第一一〇号事件の和解により代金一万円で田淵から譲渡を受け、その所有権を取得した。
2、しかるに、控訴人は昭和三六年二月一日以来なんらの権原なく係争部分を占有し、被控訴人に対し一ヶ月金一、〇〇〇円の賃料相当の損害を与えている。
3、よって、被控訴人は控訴人に対し昭和三六年二月一日以降昭和四二年一月末日まで右の割合による賃料相当の損害金合計金七万二、〇〇〇円の支払を求める。
三、控訴人は答弁として次のとおり述べた。
1、請求原因事実中控訴人が係争部分を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。
2、被控訴人はもと主たる建物を所有し、これにつき債権者株式会社北越銀行のために根抵当権(以下本件根抵当権という。)を設定し、昭和二七年九月一一日新潟地方法務局受付第八、一〇八号をもって根抵当権設定登記を経由した。
3、係争部分は本件抵当権設定登記後、当時の主たる建物の賃借人田淵がこれに従として附合させたもので、これにより、係争部分の所有権は当時の主たる建物の所有者である被控訴人に帰属した。その後、本件根抵当権に基づき昭和三二年一一月一五日主たる建物につき競売開始決定がなされ、昭和三四年六月一七日申洞銖が競落許可決定により係争部分を含めて主たる建物の所有権を取得し、昭和三六年三月一日同法務局受付第二、九三四号をもってその旨の登記がなされたが、同年五月一七日売買により控訴人が係争部分を含め主たる建物の所有権を取得し、同月一八日同法務局受付第八、一五三号をもってその旨の登記がなされた。
以上のとおり係争部分の所有権は控訴人に属するのであるから、被控訴人の本訴請求は失当である。
四、≪証拠関係省略≫
理由
一、≪証拠省略≫によれば、主たる建物はもと被控訴人の所有であったところ、被控訴人はこれにつき債権者株式会社北越銀行のため本件根抵当権を設定し、昭和二七年九月一一日新潟地方法務局受付第八、一〇八号をもってその旨の登記が経由されたこと、その後右根抵当権に基づき昭和三二年一一月一五日主たる建物につき競売開始決定がなされ、昭和三四年六月一七日競落許可決定により申洞銖がその所有権を取得し、昭和三六年三月一日同法務局受付第二、九三四号をもってその旨の登記が経由され、更に控訴人が同年五月一七日同人から主たる建物を買受け、同月一八日同法務局受付第八、一五三号をもってその旨の登記が経由されたことが認められる。
二、次に≪証拠省略≫によれば、被控訴人は昭和二八年頃田淵利夫に対し本件建物中別紙図面表示の黒斜線部分の六畳及び四畳半の間を賃貸したが、当時係争部分中に便所及び玄関はなく、台所部分は主たる建物の庇を延長しその下を板囲いにした土間となっていたこと、田淵は入居後、右土間に隣接の四畳半の間と同じ高さに床を張り水道を敷設して台所に改造し、右台所の東側に接続し台所及び四畳半の間の柱を利用して便所を附加し、更に四畳半の間の東側にこれに接続しその柱を利用して玄関を附加し、かくて、係争部分が主たる建物に附加されるに至ったもので、その位置関係、柱の利用関係などは別紙図面表示のとおりであること、その後、前認定のような経緯で主たる建物につき本件根抵当権が実行され、控訴人がその所有権を取得したことが認められる。
三、しかして、控訴人が係争部分を占有していることは当事者間に争いがないところ、被控訴人は昭和三五年四月二一日新潟地方裁判所昭和三四年(レ)第一一〇号事件の和解により代金一万円で係争部分を譲受けてその所有権を取得した旨主張し、≪証拠省略≫によれば、被控訴人主張のような裁判上の和解が成立したことが認められる。しかし、係争部分はいずれも人の居住に必要な便所、台所及び玄関であり、右に認定したような構造の下に主たる建物に附加されたものであるから、主たる建物に従として附合されたものと認めて差支えなく、しかも右認定によれば、係争部分はそれ自体独立して建物としての効用を有するものとは認められないから、前記裁判上の和解以前に主たる建物への附合によって、係争部分の所有権は当時の主たる建物の所有者である被控訴人に帰属していたものといわなければならない。そして、その結果、係争部分は主たる建物についての本件根抵当権の効力を受けることとなり、その根抵当権の実行によって、被控訴人が主たる建物の所有権を失い、前認定のような経緯で主たる建物の所有権が控訴人に帰属した以上、控訴人はこれによって係争部分の所有権をも取得したものということができる。
このように、被控訴人は附合によって一旦係争部分の所有権を取得後、本件根抵当権の実行によって、主たる建物と共に係争部分の所有権をも失ったものであるから、前記裁判上の和解によっても被控訴人は係争部分の所有権を取得し得るものではない。
四、してみれば被控訴人が所有権を有することを前提とする本訴損害金の請求は失当であるからこれを棄却すべく、民事訴訟法三八六条によりこれを認容した原判決を取消し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚淳 裁判官 松野嘉貞 佐藤歳二)
<以下省略>